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どこにでもある戯れ言日記です。 日々のつぶやきから萌えの叫びまで。
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王国組で星祭りの話。無駄に長いです。

***
街並みは色とりどりの飾り付けで着飾り、
10年に一度の記念日に浮かれる人々で賑わう。
時折日の暮れかけた空を見上げて、その時を心待ちにしていた。

人の間を縫うように歩きながら、テールは星のかけらを集めていた。
拾い上げては物珍しそうに眺め、綺麗な形のものを袋に入れる。
その動作を何度か繰り返した後、ふと視線を上げると知り合いの姿が見えた。

「アンジェどうしたの?何か探し物?」

声をかけると彼女は勢いよく振り返り、こちらに駆け寄ってきた。
テールが尋ねたように、まるで何かを探すようにしきりと辺りを見回している。

「あぁテール、ティラー見なかった?」
「物じゃなくて探し人か。あの空飛ぶ郵便屋さんだよね?」
「そう、ずっと探してるんだけど見つからないのよ。
全くあいつったら何やってんのかしら!」

2人を知る人は口をそろえて言う、
王国内であそこまで仲が悪いコンビは珍しいほどだと。
テールも『こんな日に喧嘩しに行かなくても』と言いかけたが
アンジェがいやに真剣な表情をしていることに気づいてやめた。

「…なんかワケありみたいだね。
街の中はひととおり回ったけど見なかったよ。いるとしたらあっちじゃない?」
「本当?ありがとう行ってみる!あぁもうあの馬鹿どこに行ったのよ…!」

テールの指さす方向を見ると、慌ただしく走り去っていった。
おかげで言葉の最後の方は聞き取れなかったが、
さんざん悪態をついているらしいことは雰囲気から分かった。

「…やっぱり喧嘩しに行くなら止めときゃよかったかな」


――いつからだろう、変わってしまったのは

『いちいち突っかかるのやめてくださいよっ、邪魔なんですっ!』
『その態度がムカつくのよ、このへたれ魔法使い!』
『だからっその呼び方やめてって言ったじゃないですかっ!』
『もう、なんでよ!なんなのよ!あんた昔はそんなこと言わなかったじゃない!』
『…む、昔のことは言わないでくださいっ!』

昔はあんなこと、言わなかったのに――


どこをどう歩いたものか、気が付けばアンジェは森の中まで来ていた。
木々の間から覗く空もすっかり暗くなり、ちらほら星も見える。
遠くかすかに聞こえてくるお祭り騒ぎのにぎやかな声、
どうやら星祭りの本番も始まったらしい。

「あーもう!あんた日が落ちるの早いのよ!もっとゆっくり暮れなさいよ!
流れ星に間に合わないじゃない!いったいどうしてくれんのよ!」

見上げた空に八つ当たりしてみるも何かが変わるわけでもなく、
アンジェは言いようのない虚しさと疲れを感じた。

「ずっと待ってたのに……」

と、空を横切る人影がちらりと見えた。
緩く旋回して、こちらに降りてくる。
その顔が見えるや否や、アンジェはその人影に駆け寄った。

「アンジェ、なんでこんなところに…」
「やっと来たわね!あんた遅いのよ!いったい今まで何してたの!?」
「何って、配達に行ってたんですよっ!
星祭りだからお届け物が多くて大変だったんですっ」
「こっちも大変だったんだから!間に合わないかと思ったじゃない!」

ティラーはいつもと変わらない態度で(こちらの事情など知らないから当然だが)
それが一層気に障った。
こっちの気も知らずに何のんきにしてるのよ、と苛立ちがこみ上げてくる。

「あたしはね、ずっと探してたのよ!あんたのこと、ずっと待ってたんだからね!」
「そんなの知りませんよっだいたい何で怒られなきゃいけないんですかっ!」
「星祭りのこの日にあんたがいないから!探してたんじゃない!
間に合わなかったらどうしようかと思ったわよ!」
「だからっ星祭りと僕と、どう関係があるんですか!
ちゃんと分かるように言ってくださいっ!」
「あーもう!なんでわかんないのよ!」

傍から見ればティラーが正論なのだが、
今のアンジェには冷静な判断などできそうにない。

「必要だから探してたんでしょ!でなきゃこんな苦労する必要ないじゃない!」
「だからっアンジェの願いはあなたの問題じゃないですかっ!別に僕には関係ない…」
「おおありよこの馬鹿!あたしが何のためにこの日を待ってたと思ってんの!」

今までずっと、長い間ずっと抑えてきた何かがはじけ飛んだ。
本当は星祭りが過ぎても黙っているつもりだったが、もう我慢できない。

「まだ分かんないの!?あんたが一緒にいなきゃ意味がないのよ!」


――今でも忘れられない約束があった

『あんただって昔は言ってたじゃない、王国で1番の魔法使いになるんだって』
『そ、それは…言ってましたけど……』
『一緒に一番になるんだって、約束したじゃない!まさか忘れたの?』
『……そんな昔のこと、まだ覚えてたんですか…』
『まさか本当に忘れたの…?嘘でしょ!?あんなに言ってたのに!信じらんない!』
『違う、そうじゃなくて…』
『もういいわよ!あんたがそんな奴だなんて思わなかった!もう知らない!』

今でも私の夢は――


一度感情に任せて飛び出した言葉は、
止めようとしてもブレーキが利かなくなっていた。

「あんたは覚えてないでしょうけど、昔約束したのよ。
あたしは踊り子で、あんたは魔法使いで。
目指すものは違うけど、一緒に一番になるんだって。」

まだ子供の頃だった。
果てない夢を見ていた無邪気な約束は、彼女の中に根付いていた。

「それなのに!あんたはいきなり魔法使いを諦めるなんて言うから!
理由も何も教えてくれなかったじゃない!」

幼い口約束を本気にすることが馬鹿らしいことも、
昔の話など忘れても仕方ないことも、分かっていた。
それでも、どうしても納得がいかなかった。

「信じたかった!同じ夢追ってるって信じたかったの!
だって、夢の話してた時のあんたは、あんなに楽しそうだったじゃない…!」
「アンジェ…」
「なのに、忘れたなんて…そんなの、認めたくなかった…っ!」

気が付けば涙がこぼれ、頬をつたう。
あの時から、叶えたい願いはただ1つだけだった。

「あたしはっ、魔法使いを目指してた、昔のあんたに、戻ってほしかったの!」

その時、頭上をひときわ大きなほうき星が流れた。
辺りは一瞬昼間のように明るくなり、遠くに聞こえる歓声がが一層大きくなる。
その光は森の中で立ち尽くす2人も照らし、そして消えていった。

「……アンジェ…」
「あんたと一緒じゃなきゃ…あんたがいなきゃ、意味ないのよ…」

初めてだった。
アンジェの想いを聞いたのも、こんなに弱気な彼女を見るのも。
昔の約束を、そんなに大事に思っていたなんて、知らなかったから。

長い沈黙の後、ティラーがゆっくりと口を開いた。

「あの約束を忘れたことなんて、一度もありませんよ」

アンジェが涙で濡れた顔を上げる。

「忘れたわけじゃなくて…ただ、今はまだ、僕の夢は叶えられらないんです」
「……何よ、何なのよその言い訳。じゃあなんでそう言ってくれないのよ!」
「アンジェが一番になりたくて頑張ってるのは知ってました。
けど、それが約束したからだとは思わなくて…」

そこで言葉を切ると、アンジェの目を見た。

「いつも今を追いかけるあなただから、昔のことなんて覚えてないだろうって。
…あの時の約束を覚えてるのは、僕だけだと思ってた」

でも、今を追いかけているように見えた彼女が見据えていたのは
輝かしい未来の先にある、遠い昔に交わした約束だった。

「…あ、あんたね、あんたってほんっと…馬鹿じゃないの…!」

涙をぬぐうと、ふたたびティラーの目を真正面から見据える。
その目にはさっきまでの感情に任せた色はなく、夢を見つめる強い光が宿っていた。

「あんたねえ、なんでいちいち紛らわしい言い方するのよ!落ち込んで損したわよ!」
「何ですかそれ!勝手に思い違えてたのははそっちじゃないですかっ!」
「だいたいね、あんたって昔っからそうなのよ!大事なことはいつも後から言うじゃない!」
「そんなことないですっアンジェがせっかちですぐ勘違いするだけですよっ!」
「なんですって!」
「本当のことじゃないですかっ!」

しばらくにらみ合っていたが、不意におかしさが込み上げてきて
どちらからともなく吹き出してしまった。
いつぶりだろう、2人で声を上げて笑ったのは。

静けさの戻った森に、楽しげな笑い声だけが響き渡る。

***
アンジェがなぜほうき星を心待ちにしていたのか、という話でした。
あと2人は昔からの知り合いで、
アンジェが1番を目指していたのは昔の約束があったから。
ティラーが夢をあきらめたわけや
魔法使い呼びを嫌う理由とかその辺はまた別の話です。
たぶん疲れるから書かないけど。
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